2016年3月19日土曜日

コーチングのスキル④ フィードバック

自分が変わるために、あるいは成長するために、今の自分に気づくことはとても大事なのですが、
なかなか自分で自分を見て気がつくことは難しい。限界があります。
そこでコーチはクライアントの行動や言動で気がついたことをフィードバックします。
「こうなってるよ」と知らせることで、「じゃあこうしてみよう」と行動するためです。
 
フィードバックはもともと電気の世界の話。
AからBまで、電気がどれだけ流れました、ということをBがAに伝えるというものです。
コーチの世界では、ふたつ。
 
・客観的事実を伝える
・主観的事実を伝える
 
ふたつを使い分けることで、効果的にフィードバックをすることができます。

・あなたは私と話しているときに、90%の時間、私の目を見て話していました。
・あなたが私の話を聞いている時に、足を組んで、腕組みもしていました。
 
これが「客観的事実のフィードバック」。
 
・私の目をじっと見ながら話してくれたので、私にはあなたの情熱が伝わってきました。
・足を組んで腕組みもしていたので、私の話は聞きたくないのかなと感じました。
 
これが「主観的事実のフィードバック」です。
 
あるとき、私の近くにいた後輩(当時25歳)が、
「小篠さんのフィードバックは受け入れられるのに、
 どうして、上司の○○さんのフィードバックは受け入れられないんでしょう」
と言います。
「どんなフィードバック?」
「あなたの言い方は、ちょっと高圧的なのよね。
 あれじゃあ、ダメだよ。
 新入社員も素直に聞けないよ」

これはフィードバックではありません。
「言い方が高圧的」と感じているのは、「上司」の感じ方か判断か。あるいは評価。
新入社員の気持ちを代弁しているつもりかもしれませんが、本当かどうかは不明。
「ダメだ」と言っているのは上司であり、上司の評価を押し付けているのと同じ。
しかも、それだけが原因で「新入社員が素直に聞けていない」と、
不確かな因果関係を断定的に伝えています。
これは、「こんなやり方じゃダメだよ」と言っているのも同じで、
到底受け入れられるものではありません。

「いつもと違って、声のトーンが強いように私には聞こえたよ。」
「そうとう頭にきているっていう感じが伝わってくるよ。」
「あなたの話を聞いていた新入社員は、今、どんな気持ちになっているだろう」
加えて、
「もし、次に同じようなことが起こったときに、あなたは新入社員にどう対応する?」
質問に答えることで、次に同じことを繰り返さなくなる可能性が高くなります。

私はフィードバックの文化を会社や組織に根づかせたいと考えています。
新入社員研修で「フィードバックとは何か」「フィードバックの方法」を伝えた上で

 1.フィードバックをする
 2.フィードバックを受け入れる
 3.フィードバックを求める

を習慣づけてみてくださいとお話をたところ、彼らは、
先輩トレーナーと交換する業務日誌に、

 「もっとフィードバックがほしい」

と書いていました。
ああ、みんな、若い子たちは成長したいんだなって、思ったことを覚えています。

人は指示命令されなくても変わっていけます。
わずかな事実を伝えるだけで、人は成長していけるのです。

2016年3月11日金曜日

日々のこと_20160311

弥生某日、某社研修所、受講者49人。
3時間をいただいてマネジメント研修を行ってきました。

ひとりでも部下を持った時からマネジメント力が必要になる。
肩書や知識だけではマネジメントはできないし、
時間と経験を重ねても優秀なマネジメントにはなれない。

 マネジメントとは何か
 マネジメントの役割とは何か
 リーダーとマネージャーは何が違うのか

そんなことをディスカッションしながら理解していただくと同時に、
部下とどういうコミュニケーションをとるのか、ワークも行う。

マネジメントの成長が会社を成長させていく。
そう信じている。

2016年3月8日火曜日

コーチングのスキル③ 承認する

コーチングのスキルで、「承認する」も重要なスキルのひとつ。
コーチングだけでなく、上司部下、親子関係でもたいへん重要な働きをするスキルです。

承認には、存在承認や成果承認というものがあります。
存在承認というのは、まさに、あなたがそこにいることに気がついていますよ。というもの。
「挨拶」が代表的です。おはよう。というのはそこにいることを知っているよ。ということ。
名前を呼ぶこともそうです。挨拶する時に、「田中君、おはよう」と言われると、田中君は、
「あ、この人は自分を見てくれている。自分に挨拶してくれた」という思いが生まれ、
帰属意識が強くなるといわれます。
行動承認は、やったことを認めること。「これをやったんだね」
「前回は5回だったけど、今回は10回できたね」
成果承認は、行動した結果、どうなったのかを認めること。
「手伝ってくれてとても助かりました。ありがとう」

アクノリッジメントを英語の辞書で調べますと、「感謝する」という意味も出てきます。
その代表的な言葉が「ありがとう」。
お願いしたことをやってくれたときには、いつでもありがとうとまず言う。
それが承認になるのです。

「承認する」のエピソードをひとつ。
娘が2歳ごろの話。
「ねえママ、この本読んでくれない?」とワイフに言うわけです。
ワイフはちょうどその時夕食の準備をしている。
ワイフが娘に「今、ご飯の準備しているから、後でね」っていうと、
娘は泣き出します。
「あやちゃんは、お母さんに本を読んでもらいたいのね。
 あやちゃんは、ご本、大好きだものね。
  でもさあ、いまご飯の準備しているから
 できないんだ。ご飯の後だったらいいよ。」って答えると、
娘は泣きません。
自分の気持ちを受け止めてくれた。
何をしたいかが伝わったとわかると泣かないのです。

「ほめて育てる」といいという方もいらっしゃいます。
「偉いね」「いい子ね」「よくやった」のような言葉たちです。

ところが、「承認」は「ほめる」こととはかなり違います。
ほめられるとやる気になるというのは確かですが、
ほめるだけでは成長しないとも言われます。
「ほめられるためにやる」ようになってしまうことがあるからです。
それよりも、達成したことを、「達成したね」と言ってあげるほうがいい。
次に、また達成しようと思うからです。

心理学者アドラーも、「誉めてもいけないし、怒ってもいけない」といいます。
事実だけを伝えるだけで十分。承認するということです。

幼児教育の専門家であった、イスラエルの学者ギノットは、著書の中で、
子どもを褒めて育てるのは良くないと言っています。
承認してあげなさいと。

スタンフォード大学のキャロル・ドウェックの調査がとても興味深い結果を出しています。
ブログの「子育て(ほめることの功罪)」をご覧ください。


名前を呼ぶのも承認。
挨拶も、ありがとうも、承認。
皆さんは普段どれくらい承認をしていますか。

承認されるといい気持になります。
いい気持になると、前に進む気持ちになります。

コーチは、クライアントが前に進むためにコーチをしているのです。

2016年3月1日火曜日

コーチングのスキル② 質問する (番外編)

コーチングスキルのふたつめとして
「質問する」について2回にわたって書いてきました。

今回は番外編。
コーチングでの実際の会話ではなく、
映画の中に面白い会話があるのでご紹介します。

邦題「きみに読む物語」(原題"The Notebook")は2004年の米国作品。

主人公アンは貧しい青年ノアとひと夏の恋に落ちる。
両親に引き裂かれたアンは7年後に裕福な弁護士と婚約するが
ノアを訪ね、7年前の愛を確かめあう。
アンは、自分がどうすればいいのか不安になる。
そして、7年前と同じように口喧嘩。
だったらもういいわ、ってな調子で去ろうとするアン。

ノアは、アンに何度も質問する。
「君の気持ちはどうなんだ」と。

"Would you stop thinking about everyone wants?"
"Stop thinking about I want, he wants, parents want."
"What do you want?"
"What do you want?"
"W H A T  D O  Y O U  W A N T ?"
"What do you want?"

「周りがどうしたいかなんか考えないでほしい。
 僕の気持ちはどうでもいい。
 君がどうしたいかなんだ。
 婚約者や両親がどう思おうと、関係ない。
 本当は君はどうしたいんだ。
 君がどうしたいか、なんだ」

と迫るノアに、アンが答える

"I have to go."
「私、行かなくちゃいけない」

ノアは、その一言を聞いて歩き去っていきます。

人は、どうしても、自分の頭の中にある
固定観念や常識、べき論、建前、傍目、体裁、遠慮、気遣いに拘束される。
そうではなく、
 自分はどう思っているのか
 自分はどうしたいのか
 自分の気持ちを大切にしようよ
とノアは必死になるのに、アンは
「こうしなければならない」
と答えてしまう。

"I wanna go." ではなく、"I have to go."
質問の答になっていないと深刻になるより
人は、そういう決め方をすると考えたほうがいいのでしょう。


コーチはクライアントに何度も質問します。

「あなたはどうしたいの?」と。

あなたの心の奥底にある、
「こうしたい」
「こうなりたい」
という思いを引き出すために、コーチは

「あなたはどうしたいの?」と繰り返すのです。

決して正解を見つけさせるためではなく、
自分が何をしたいのか、どうしたいのかを考えることで
何かに気づく、何かを発見することを促しているのです。
もちろん、コーチにはその答が正しいのかどうかはわかりません。
正しくはないかもしれないけど、少なくとも、誰かの影響を受けた
他人の思い・期待・思惑に応えるような決定をくだすのではなく、
正直な自分の答を見つけようよと提案するのです。

あなたも自分に問うてみませんか。

「自分はどうしたいんだろう」
「私は何をしたいのだろう」
と。

まるで、自分が自分をコーチするように。

日々のこと_20160301

6年ほど前のクライアントが
息子と一緒に事務所を訪ねてくれました。
その夜、彼女はこんなメールをくれました。

 あれ以来、これはまずいな、と思ったら
 自分の考えや悩みを上司に相談するようにしています。
 自分自身でどうしたいか、を
 自分に問いかけながら。

相手にアドバイスを求めるのではなく、
「結局自分はどうしたいのか」
見つけるために相談する。
自分で決めていくことを習慣づけることができた
というメールは、元コーチである私にとっては、
たまらなく嬉しいメールになった。

パズルで遊んだ彼女の息子(3歳男子)も、きっと
自分で答を見つけられるおとなになっていくことだろう。